昆虫散歩道

昆虫をあれこれ撮影してあれこれ語ります

カワラバッタ・・・バッタらしくない体色の秘密は生息地にあり

灰色の体色が特徴のカワラバッタ。その秘密は生息地にある

参考までにトノサマバッタ。体色の違いは明らか

バッタというと、皆さんはどんな昆虫を想像するだろうか。トノサマバッタショウリョウバッタ等、草原にいて緑色で跳躍力や飛翔力の高い種類を想像する方が多いだろう。
そんなバッタの仲間で、他のバッタと一線を画すような存在なのが、今回紹介するカワラバッタである。

 

どの辺が一線を画すポイントなのかといえば、やはりその体色だ。
なんとカワラバッタの体色は灰色。模様らしい模様もないので、一見すると灰色一色という感じだ。
羽は青みがかったような色になるので、飛び立つと中々独特な雰囲気がある。

 

しかしなぜそんな体色をしているのか。その答えはカワラバッタが生息している場所にある。
バッタは基本的に、草原のような草が生い茂っている所を主な生息域とするが、カワラバッタはその真逆で、草があまり生えない石がゴロゴロしているような河原に生息しており、草むらに入り込むことはまずない。要するにカワラバッタという和名は、この生息域から来ているというわけだ。
そして、そんな場所に生息していると、カワラバッタの体色は見事な保護色を発揮する。仮に見つけたとしても、1度目を切るとすぐに見失ってしまうほどだ。

こうして見るとかなりの保護色。見つけても目を切ると見失いがち

そして、生息環境が特殊であるということは、それだけ生息地も局地的になりやすいということでもある。故に多くの都道府県でレッドデータに掲載されている希少種でもある。
私が住む埼玉県では、絶滅危惧Ⅰ類という最も絶滅の危険性が高いランクになっている(関東では東京都、神奈川県、群馬県でも絶滅危惧種Ⅰ類)
前述の通り、大きめの石がゴロゴロした川原が住みかなので、流れが穏やかな下流域ではダメだし、逆に岩だらけの渓谷のような場所でも生息できない。
また、ちょっとした規模の川原には中々生息しておらず、ある程度規模の大きい川原でないといけない
さらに、車が入り込めるような場所では中々生息していない。近年流行しているキャンプやアウトドアで盛り上がる川原では、中々見かけることは珍しいというわけだ

さらにさらに近年は、洪水対策等で河川を改修することが多くなっているため、カワラバッタにとっては中々逆風が吹いている時代と言えよう。

 

しかし逆に言うと、それだけ生息域が限られるということは、ポイントが絞りやすいともいえる。
狙い目は規模の大きいやや流れの速い河川敷の河原だ。そうなると、やはり河川の中流が主な生息域となってくる。
そして、なるべく人の入っていない所がおすすめだ。ただし、河川の周辺は危険な箇所も多いので、くれぐれも無理はしないよう、楽しんで探すようにしよう。

石がゴロゴロした広い河原があったら、カワラバッタチャンス

生息域に独特なこだわりを持っているカワラバッタ。故に個体数が少なくなっているわけだが、見つけたときの嬉しさはひとしお。
あなたもポイントを絞り込んで、カワラバッタ探しに挑戦してみてはいかがだろうか。

 

【カワラバッタ】

バッタ目バッタ科

成虫は7月~10月頃にかけて出現

体長24mm~43mm

北海道から九州にかけて分布

大きめの石がゴロゴロした河原に生息

イネ科の植物等を食べる

規模の大きい河原に生息するバッタ。日本固有種でもある。

 

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ギンイチモンジセセリ・・・白いラインをあしらい細々と暮らすセセリチョウ

白いラインが特徴的なギンイチモンジセセリ

イチモンジセセリと言えば、どこにでもいる身近なセセリチョウの仲間で、河川敷等に行けば普通にたくさん目撃する普通種である。
そんなイチモンジセセリの頭に「銀」が付くのが、今回紹介するギンイチモンジセセリである。

 

セセリチョウというと、ガに間違われる種類が多いが、特にギンイチモンジセセリは、知らない方が見たらチョウだとは思わないだろう。他のチョウと比べてもかなり小さいし、飛び方もセセリチョウのような俊敏な感じでもなく、どことなくフラっとしたガっぽい感じである。

 

イチモンジセセリの名を冠しているが、イチモンジセセリとそこまで近縁というわけではない。実際見た目もそんなに似ていない。
というよりギンイチモンジセセリは、他のチョウと比べてもちょっと異彩を放っている。似ている種類も存在しないので、見分けるのも容易だ

こちらはイチモンジセセリ。ギンイチモンジセセリとは全然似ていない

形態を見ていくと、裏面の白いラインが大きな特徴で、これが和名の由来にもなっている。この白いラインは春型だとくっきりはっきり表れるのだが、夏型はなんだかボヤっとする感じになる

夏型はラインがくっきり表れない

一方の表面は、焦げ茶をさらに濃くしたような無地の地味な感じになっており、イチモンジセセリのような白い斑点もない独特な感じとなっている。

羽半開きの個体。表は焦げ茶のかなり地味な感じだ

河川敷の草原や休耕地等の拓けた所に生息し、イネ科の様々な植物を食草としており、分布もまあまあ幅広いのだが、なぜか生息地は局地的で、どこにでもいるようなチョウというわけではない。私が住む埼玉県では準絶滅危惧種に指定されている他、多くの都道府県でレッドデータに掲載されている、中々のレアキャラと言えよう。
実際見かける時も、1度にたくさん見られるということは少なく、1頭だけフラッと現れる事の方が多いと感じる。

 

個人的な話をすると、私がはじめてギンイチモンジセセリを見たのは川で釣りをしていた時だったのだが、あまりにテンションが上がって釣りそっちのけで写真を撮っていた事を思い出す。
まあまあなレアキャラで、他のチョウにはないデザインなので、目立たないチョウではあるが、見つけるとなんだか特別感のあるチョウだ。
実際フィールドワーク中に、ギンイチモンジセセリの保護活動をしているおじさんにも会ったことがあるので、中々の人気者のようである。

 

そんなこんなでギンイチモンジセセリは、目立たぬ小さな体で我々を楽しませてくれる。にわかにはチョウとは信じがたいが、立派なチョウの仲間である。
あなたもギンイチモンジセセリを探して、テンションを上げてみてはいかがだろうか。

 

【ギンイチモンジセセリ

チョウ目セセリチョウ科チョウセンキボシセセリ亜科

春型は4月~5月頃、夏型は7月~8月頃にかけて出現

前翅長13mm~21mm

北海道から九州にかけて分布

河川敷の草原等に多く生息

食草はイネ科のススキ等

白いラインが特徴のセセリチョウ。なぜか生息地が局地的である。

 

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ギンヤンマ・・・このかっこよさに憧れた少年時代

やっぱギンヤンマかっけえな

水辺を主戦場にする昆虫といえば、その花形はトンボだろう。特に水性植物が生える湿地は、まさにトンボの楽園。様々なトンボが飛び交う賑やかな様相を呈する。
そんなトンボの楽園で、一際存在感を放っているのが、今回紹介するギンヤンマである。

 

子どもの頃はそれはそれは憧れたものである。大柄な体つきに美しいカラーリング。しかも、近所で見かけることがほとんどなかったので、その憧れ具合も相当強かった。実際このトンボに特別な感情を抱く方も少なくないだろう。今も昔も昆虫界の人気者だ。

ところがどっこい、ギンヤンマは探せば普通によく見かけるトンボの一種と言って差し支えない。
実際近所の河川敷やら公園やらでも普通に見かけるどころか、住宅街でもどこからともなく飛んで来る事すらある。なぜ子どもの頃あれほど見つけられなかったのかが不思議でならない。
まあ身近な所に存在してもギンヤンマはギンヤンマ。やはりかっこいいものはかっこいいのである。

 

さて、ここで子どもの頃から常に思ってきた疑問をぶつけていきたい。それは、なぜ黄緑なのにギンヤンマなのか
なんでも水色の部分の裏側が白色をしており、そこからギンヤンマと名付けられたようであるが、そんなピンポイントの色を和名に採用したの!?という感じである。普通に考えたら和名はキミドリヤンマだろう
まあギンヤンマという和名はなんだかかっこいいので、それはそれでありという事にしておこう。

ちなみにメスは水色の部分が黄緑になっており、腹部の色もより明るい茶色になっている個体が多い

メスは水色の部分が黄緑になっている

ギンヤンマの基本行動パターンは、水辺をパトロールするように往復して飛び回る事である。
これはギンヤンマに限らず様々なトンボに言えることだが、オスの縄張り意識はかなり強く、同じ種類のオス同士はもちろん、他のトンボともかなりバチバチにやり合っている姿をよく目撃する
そして、飛翔力が高いが故に、止まることがほとんどなく、中々その瞬間を写真に収めることが難しい。カメラマン的には中々苦労させられるトンボだと言えよう。

水辺を飛んでパトロール。他のトンボともバチバチにやり合う

産卵の際は雌雄が連結したまま、水性植物に止まって行う事が多い(メスが単独で行うこともある)
この連結は、他のオスにメスを横取りされないようにするためのものである。というのもギンヤンマは、自身の子孫を残すためにかなり強欲で、他の交尾中のペアにもアタックして邪魔するほどなのだ。故にメスが単独でいようものなら、他のオスに取られてしまうことは定期。なので連結して、他のオスを牽制でもしないとやっていけないというわけだ。

縄張り争いから産卵中まで、熾烈な争いを繰り広げて子孫を残していると思うと、なんとも感動的な話である(ただ単に性欲が強いだけだと言えなくもない)

産卵は連結して行うことが多い。ヤンマ系では珍しい

そんなこんなでギンヤンマは、常に昆虫好きの憧れの的であり、そのかっこよさにはいつもの惚れ惚れするものなのだ。
その雄姿を目に焼き付けて、昆虫ライフを彩っていこう。

 

【ギンヤンマ】

トンボ目ヤンマ科

成虫は4月~11月頃にかけて出現

体長71mm~81mm

北海道から沖縄にかけて分布

池沼や湿地、水路等に多く生息

昆虫を捕食

ヤンマ科の代表選手。黄緑の体色が大きな特徴。

アオドウガネ・・・分布を北上させている艶消しグリーンの刺客

緑が鮮やかなアオドウガネ。いつの間にか身近な存在に

「こがねむしーはーかねもちだー♪」などという歌があるが、その輝きの美しさで異彩を放っているのがコガネムシだ。
ところが私が住んでいる埼玉県南部のベッドタウンでは、コガネムシを見る機会はあまり多くない。その代わりによく見られるのが今回紹介するアオドウガネだ。

 

緑が鮮やかな本種ではあるが、昆虫に興味がない方からしてみたら、一体コガネムシと何が違うのかがわからないだろう。
もっと言うと、カナブンとの違いをわかっている方もほとんどいないのではないか。

 

まず、コガネムシとは輝き具合が全然違うコガネムシと比べるとアオドウガネはなんというか、艶消しっぽい感じだ。故に慣れればコガネムシと見間違うことはまずないだろう(ていうかコガネムシのメタリック感半端ねえ)

こちらはコガネムシ。すごいメタリック

一方のカナブンは、アオドウガネと比べるとなんだか角ばった顔をして、全体的にシュッとしている羽の付け根にある三角(小循板〔しょうじゅんばん〕という)の面積も大きい。また、主な食べ物は樹液だったり果実だったりなので、そうしたところで見かけたらカナブンだと思っていただいて差し支えないだろう。

こちらはカナブン。カブトムシを捕りに行くとよくいるよね

そんなアオドウガネだが、前述の通りコガネムシに比べると遥かに目撃する頻度が高い。私は埼玉南部の住宅街ど真ん中に住んでいるのだが、庭先ですらアオドウガネをよく見かける
元々は南方系のコガネムシの仲間だったのだが、温暖化の影響か分布域が北上しており、近年では関東でもごくごく普通に見られる種類となった

 

そんな身近な存在なので、親しみやすい昆虫なのかと言われると、これが少し事情が異なってくる。それはなぜかというと、様々な植物の葉を食べる害虫として悪名高いからである。
成虫の食べ物は様々な広葉樹の葉っぱなのだが、時折大量発生して全体的に食い荒らしてしまうというとんでもない事をしでかしてしまう。
特に果樹に対する被害は大きく、個人的には、友人宅の柿やらキウイやらがやられていたのが印象的であった。

アオドウガネに食害されたカキの木。全体的にこうなっちゃうから大変だ

さらにアオドウガネが厄介なのが、成虫だけに飽きたらず幼虫までもが農作物に被害をもたらすという点である。
幼虫は土中で木や草の根を食べて育つ。特に沖縄のサトウキビ畑での被害は甚大で、駆除活動にかなり腐心しているようである。
要するにアオドウガネは、上からも下からも植物を食べ尽くしてしまうというとんでもハイブリットな生態をしているのだ(なんちゅう嫌なハイブリット)

 

どうしてもこういう害虫とされる昆虫を紹介すると、ネガティブな内容になってしまうので心苦しいのだが、アオドウガネの魅力はというと、カラーリングが美しくてなんだかかわいらしいところだ(見た目しか入れないのがバレそうだ)
中々ここまでキレイに緑が出る昆虫もいないのではないか。そう考えると、なんだか美しい昆虫という事で、見え方も変わってこないだろうか。ほら!そんな感じに見えないだろうか!ほらほら!(強引)

 

まあなんとも言えないまとめ方になったが、アオドウガネはアオドウガネで、自らの生態に倣って頑張っているわけである。その生き様を理解していくことで、うまく付き合うきっかけになるかもしれない。
皆さんもアオドウガネを見かけたら、暖かく見守ってあげよう。

 

【アオドウガネ】

甲虫目コガネムシスジコガネ亜科

成虫は5月~10月頃にかけて出現

体長17mm~26mm

本州から沖縄にかけて分布

畑や果樹園、公園等に多く生息

幼虫は植物の根を食べる

艶消しグリーンのコガネムシ。農作物の害虫としても知られる。

 

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ノコギリクワガタ・・・いくつになってもこのかっこよさはテンションが上がる

これぞクワガタってもんである

クワガタムシ。それはカブトムシと並んで絶大な人気を誇る、昆虫界のまさに王様。そのかっこいい姿は今も昔も昆虫少年達の羨望の眼差しを受けてきた。
そんなクワガタムシの中でも、とりわけ高い人気を誇るのが、今回紹介するノコギリクワガタであろう。

 

いきなり個人的な感想になってしまうが、ノコギリクワガタには子どもの頃から随分とお世話になって生きてきたものである。
私が子どもの頃は、ゴツいカブトムシよりもシュッとしたクワガタムシの方が好きだった。そして、身近な所で見られるクワガタといえば、ノコギリクワガタコクワガタということになるが、やはりそうなると、ノコギリクワガタのかっこよさに惚れ込むのは必然というもの。事あるごとに捕まえに行ったのは言うまでもない。

 

活動期は6月~9月頃になってくるが、本気で捕まえるなら6月終わりから7月辺りに照準を絞るといいだろう。8月辺りからはカブトムシの方が多くなってくるので、その前に勝負を仕掛けたいところである。

 

クワガタというと山に行かないと捕れないと思っている方も多いが、ノコギリクワガタは都市部でもそれなりに木がある公園なら、生息している確率が高い。やはり採集のマストは、クヌギやコナラ等の樹液を出す木を探すことであり、そんな木を見つけたら定期的に通ってみよう。
あまり深い森の中よりも、河川敷等のちょっとした木の方が、採集しやすくポイントも絞りやすいのでおすすめだ。


一般的に夜行性だと思われているが、経験上、それほど暑くなければ日中も結構目撃する。涼しい時は夜更かししなくても採集出来るので狙い目だ(おそらく暑さが苦手であるが故の行動原理ではないかと推測している)

 

また、これも有名な話であるが、オスの個体差が激しいのも大きな特徴である。幼虫時代の栄養状態等でオスの形態が決まってくるのだが、それにしても格差があるのでなんとも言えない。
小さい個体は、アゴ自体が小さく湾曲も少ない。アゴの刃も細かくギザギザで、よりノコギリっぽさがある。
しかし大きい個体の湾曲のあるアゴと比べると、なんともパッとしない見た目なので、少し気の毒になるのは私だけだろうか。

アゴが小さいオス。なんとも切なくなるのは私だけか?

メスはアゴが超小さいのももはやお馴染みであるが、アゴが小さいせいか挟まれるとオスよりも痛い。
樹液の出ている木にいくと、オスがメスを守るために覆い被さっている姿をよく目撃する。
ちなみに私は、メスを投げ飛ばすオスを目撃したこともあるので、要するにツンデレということだろう(適当)

メスはアゴが超小さい。これが挟まれると痛い

クワガタの仲間は成虫で越冬するものが存在し、例えばオオクワガタは成虫で2~3年ほど生きるが、ノコギリクワガタ野外で活動している者が越冬することはない(飼育下だと、うまくすれば越冬することもあるようである)ひと夏で次世代にバトンを繋ぐために全力を注いでいると考えると、なんだかエモいような気がするのは私だけだろうか。

 

ノコギリクワガタ。それは少年達の憧れであり目標。やはり夏は、ノコギリクワガタを見つけないといけないのだ。
いつまでも我々の心をくすぐり続けるノコギリクワガタを、是非とも探しに行こう。

 

ノコギリクワガタ

甲虫目クワガタムシ

成虫は6月~9月頃にかけて出現

体長 オス30mm~75mm メス24mm~30mm

北海道から九州にかけて分布

クヌギやコナラの雑木林等に多く生息

幼虫は朽ち木を食べて育つ

クワガタムシの代表格。オスの個体差が大きいのも特徴

 

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サトキマダラヒカゲ・・・複雑な模様をあしらう身近なヒカゲチョウ

複雑な模様のサトキマダラヒカゲ

参考までにジャノメチョウ。比べるとかなりシンプル

一般的にジャノメチョウの仲間というと、茶色地の羽に大きな目玉模様が特徴的なチョウのことを指し、各々思い思いの目玉模様をあしらっている。
そんなジャノメチョウの中で、他のジャノメチョウとは明らかに一線を画すような模様をしているのが、今回紹介するサトキマダラヒカゲである。

 

画像を見ていただければ一目瞭然だが、明らかに色々と複雑な模様をしている。
幼い頃の私は、昆虫図鑑を見ながら絵を描くのが好きだったのだが、サトキマダラヒカゲの絵は模様が複雑なので断念した記憶がある。

そんな模様をしているものだから、さぞかし珍しい種類なのかと思いきや、住宅街の公園なんかでもそこそこ木が生えていれば生息しているほどの普通種だ。
ただし目立つ色というわけでもなく、飛び方もなんだかバタバタとして素早いので、優雅な感じではなく、一見するとガに見える現象が起きやすいチョウとも言える。
ちなみに止まる時は必ず羽を閉じるので、表面を見たい場合は捕まえるか飛んでいるところをうまいこと写真に写すかしないといけない。

 

花を訪れることは少なく、樹液や果実等を好んで訪れる
子どもの頃クワガタ捕りをする際に、よく本種が飛んでいるのを目印にして樹液の出る木を探したものである。

 

また、サトキマダラヒカゲという和名も、馴染みのない方からすると複雑でわかりにくいのではないか。
和名を紐解いていくと、里に住む黄色いまだら模様のヒカゲチョウということで、サトキマダラヒカゲという和名がついたというわけだ。

 

さて、ここで勘の良い方はピンと来たかもしれない。
「里」に住む者がいるということは、人里離れた「山」に住む者もいるのではないかと。そう思った方、大正解である。
実はサトキマダラヒカゲとよく似た種類で、ヤマキマダラヒカゲなる者が存在する。
もっと言えばウラギンヒョウモンやジガバチ等、そっくりの種類で「サト」と「ヤマ」に分かれている者は割と存在しており、これを昆虫界では「きのこたけのこ代理戦争」と呼んでいる(大嘘)

ヤマキマダラヒカゲ。いやもう一緒じゃん

しかしサトキマダラヒカゲヤマキマダラヒカゲはスーパーウルトラそっくりであり、よくもまあ別種だと見破ったなと感心せずにはいられない。実際に昔は別種だと思われておらず、両種ともキマダラヒカゲと呼ばれていた。要するに、それだけそっくりな見た目をしているということだ。

一応基本的な見分け方としては、後羽付け根付近の模様の配列に違いがあるようだが、微妙な者も存在するので、なんとも悩ましいところである。(詳しくは下の画像参照)

これが基本の見分け方。ただし例外もいるっぽい(おい)

私が実際に目撃した感覚だと、ヤマキマダラヒカゲの方が全体的に濃い色をしており、サトキマダラヒカゲはより淡い印象を受ける
また、ヤマキマダラヒカゲは関東では高標高地に生息しているので、埼玉南部のベッドタウンに住んでいる私の周辺で見られるのは、サトキマダラヒカゲである(ちなみにサトキマダラヒカゲは高標高地でも普通に生息しているので、悪いのはサトキマダラヒカゲである)

 

とまあそんな代理戦争を行っているサトキマダラヒカゲだが、その複雑な模様は見れば見るほど美しさを感じる。
身近な所に生息するチョウではあるが、明らかに一線を画す羽の模様で我々を楽しませてくれるのだ。
皆さんもサトキマダラヒカゲを観察して、その羽の模様に魅了されてみてはいかがだろうか。

 

サトキマダラヒカゲ

チョウ目タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科

成虫は5月~9月頃にかけて出現

前翅長26mm~39mm

北海道から九州にかけて分布

雑木林等に多く生息

食草はイネ科のササ類等

複雑な模様が特徴のヒカゲチョウヤマキマダラヒカゲと酷似する。

 

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オオヒラタシデムシ・・・本当に気味が悪い存在なのだろうか?

地表を歩くオオヒラタシデムシ。黒光りするボディが特徴

カブトムシやクワガタムシ、カミキリムシやテントウムシ等、甲虫の仲間には人気者が多く、昆虫採集の主役たちが集まっている。
そんな甲虫の中で、名前に「死」を冠したなんとも不吉な者が存在する。それがシデムシだ。
今回はシデムシの中でも最も普通種であるオオヒラタシデムシを紹介していこうと思う。

 

そもそも昆虫に興味がない方からしたら、シデムシとはなんぞやという感じだろう。

前述の通り甲虫の仲間で、漢字で書くと死出虫」
なぜこんな漢字を書くのかというと、主な食事が動物の死体だからである。
もちろんオオヒラタシデムシも例に漏れず、小動物の死体を主な食料としている
時に大勢で群がって食べていることもあるので、おそらく昆虫嫌いの方は発狂ものなのではないだろうか。

ミミズの死体に群がっている様子

そんな生態なのでオオヒラタシデムシの主戦場は地表だ。基本的に見かける時は地べたを這っていることがほとんどである。

形態的な話をしておくと、メスはお尻が長く突出しているので見分けるのは容易である。
また、よく似たヒラタシデムシという種も存在するのだが、北海道にしか生息していないようで、埼玉のベッドタウンに住んでいる私には中々縁遠い存在のようである。

メスはお尻がなんだか出っ張っている

また、言及しておかなければいけないのは幼虫の姿だ。

これがもうなんだか三葉虫のようなすごい見た目なのだ。こんなキャタピラー感満載の姿で地べたを這っていくものだから、これは無理な方は絶対に無理だろう。

幼虫はとんでもないキャタピラー

ちなみにこの幼虫は、はじめのうちは土中で親が用意してくれた、愛情たっぷりの肉団子を食べて育つが、やがて自立して自らエサを求めて地表を歩き回るようになる
その頃には親と一緒に仲睦まじく食事する事もあるので、なんとも微笑ましい限りである(違うか?)

親子共演も度々ある

とまあ、ここまで記事をお読みになった方は「オオヒラタシデムシ良いところなくねえか?」と思ったことだろう。
確かに死体に群がり、幼虫がキャタピラー感満載だと、気味悪がられるのも無理はないかもしれない。しかし、それはすなわちオオヒラタシデムシが分解者として重要な役割を担っているという事でもある。彼らが動物の死体を食料として土に還元することで、自然界はうまいこと循環しているというわけなのだ。そう考えると彼らの生態も不気味ではなく、大きな意義があると言えよう。

 

自然界の一員としてせっせと活動しているオオヒラタシデムシ。彼らがただ地上を這っているだけではないとわかると、なんだか見方も変わってこないだろうか。
是非とも身近な分解者のオオヒラタシデムシを探して、その働きに思いを馳せてみよう。

 

【オオヒラタシデムシ】

甲虫目シデムシ科シデムシ亜科

成虫は4月~10月頃にかけて出現

体長18mm~23mm

北海道から九州にかけて分布

雑木林の地表等に多く生息

小動物の死体等を食べる

最も普通種のシデムシ。幼虫はキャタピラー感あるフォルムをしている。