一般的にイナゴというと、バッタよりも小振りで田んぼにいる、佃煮にするアイツをイメージする方がほとんどだろう。日本人にとって馴染み深い昆虫の1種と言ってさしつかえない。
そんなイナゴのイメージを変えてしまうのが、このツチイナゴである。
まず見た目だが、イナゴというよりはトノサマバッタに近い。大きさもイナゴより遥かに大きく、トノサマバッタに匹敵する大きさを誇っている。個人的にはトノサマバッタに似ているとされるクルマバッタよりも、トノサマバッタらしいような気がしないでもない。いずれにせよ、知らない人が見たらまずイナゴとは思わないだろう。
ちなみにイナゴもバッタ目で、根本的にはバッタの仲間ということになるので、トノサマバッタに似ていてもなんら不思議ではない。
他のバッタとの違いは、開けた草原よりも背の高い草地を好む傾向があり、そうした草に垂直にしがみついている個体が多い。
また、成虫で冬を越すという、バッタにしては珍しい生態をしている。そのため他のバッタの仲間が夏の内に成虫になるのに対し、ツチイナゴは10月頃に成虫になるという晩成型だ。
そして、成虫で冬を越すということは、春にも成虫の姿を見ることができる。中々バッタの常識を覆すような生活史を持っている面白い種なのだ。
ちなみにツチイナゴの代名詞でもある褐色の体色は、冬眠をする際に枯れ草の保護色になるためだと言われている。自らの常識破りな生態に適した体色になるなんて、なんともまあよく考えられたものである。
そんな褐色でやや地味な色のツチイナゴであるが、逆に幼虫はとても鮮やかな黄緑色をしている。(黄褐色等の個体もいる)
あと、草にしがみついている時のお手々がかわいい。
そんな容姿をしているためか、SNS上では幼虫の方が人気が高いような気がしなくもない。
ちなみに私は、なぜかは覚えていないのだが、子どもの頃、バッタの中ではツチイナゴが特にお気に入りだった。
トノサマバッタよりも珍しく、シュッとした見た目だったから惹かれていたのかもしれない。もっともツチイナゴは特段珍しいバッタではないので、会おうと思って会えるタイプのバッタではある。
「少し背の高い♪草地の草を掴むイナゴ♪」という事で、例のあの曲のタイトルをツチイナゴにして歌ってみるのも乙なものであろう。(我ながら何を言っているんだ)
幼虫はかわいく成虫はシュッとしている、そんな魅力が詰まったツチイナゴを探してみてはいかがだろうか。
【ツチイナゴ】
バッタ目イナゴ科
成虫は10月頃出現しそのまま越冬。翌年の7月頃まで見られる
体長40mm~50mm(メスの方が大きい)
本州から南西諸島に分布
背丈の高い草地に生息
様々な植物の葉を食べる
成虫で越冬する珍しいバッタで、故に春に成虫を見ることが出来る