花が咲き誇る草原にはたくさんのミツバチが訪れて、せっせと花の蜜を集めて回っている。そんな中で、ミツバチよりも一回り大きい者が同じように花を回っていることがあるが、それがハナアブである。
興味のない人はアブだと思わないのではないだろうか。サイズ感といい色味といい、ミツバチだと思われてもなんら不思議はない。
そもそも人々のアブのイメージは、刺されるととても痛い危険生物と言ったところだろうか。
ところがこのハナアブは人を刺すとかそんな攻撃的なところは一切ない。
というより、そもそも多くのアブは基本的に人を刺さない。
刺すのはウシアブ等のアブで、これは水がキレイな地域にしか生息しておらず、平野部でそうそう見かけるものではない。
私の田舎は群馬の山間部なのだが、そこですら最近は数を減らしているくらいだ。
これはアブに限らず、ハチ等のいわゆる危険生物と呼ばれる昆虫にありがちだが、印象によって大いに誤解されている節がある。
だが蓋を開けてみれば、その辺を飛んでいるアブは、人よりも花に夢中だし、ハチは身の危険を感じない限りは基本的に襲いかかってこない。
スズメバチが本当に凶暴な性格をしているのであれば、数えきれないほど遭遇している私は今頃死んでいるだろう。
だが実際は、今まで1度も刺されたことがない。
もちろんアブやハチが安全だと言うつもりは毛頭ない。正しく知識を得て、正しく怖がる必要があるのだ。
そこを踏まえて見るとこのハナアブは実にかわいらしい昆虫だ。
丸々とした体型で飛び回り、ミツバチに混じって花の蜜を求めて三千里。
日当たりのいい草原でお花と太陽がよく似合う、身近な昆虫の代表だ。
人間を恐れはすれど間違っても襲ってくることはない。(たまにぶつかってくることがあるかもしれないが、悪気はないので許してやってほしい)
そんなハナアブ上げ上げキャンペーンを行っておいてあれだが、幼虫は水中で腐植物を食べるいわゆるうじ虫(オナガウジ)である。
というのもアブはハエやカと同じハエ目(双翅目)に分類されているので、アブの幼虫が水中で暮らすうじ虫でもなんら不思議ではない話なのである。
アブの仲間はサイズも小さく、似ている種類も多いので、これまた見分けるのが難しい。
いわゆるハナアブはナミハナアブと呼ばれるもので、特に似ているのがシマハナアブという種類である。
胸部に横縞模様が現れるのがシマハナアブという見分け方があるが、どうも例外もあるようで、いやはやもっと確定的な違いはないものかと思うが、そういうものなのだから仕方ない。
昆虫は自己紹介をしてくれないので、誤解したまま過ごしてしまうことはよくあることなのだろう。
いずれにせよ奥深き世界である。
とまあこのように、アブと一口に言っても様々な種類がいて、私たちがよく知っている危険生物ばかりではないということだ。
それがわかれば、身近な存在で人を襲うことのないハナアブを観察しない手はない。
あなたの近くのお花畑に足を運んでみてはいかがだろうか。
【ハナアブ】
成虫は4月~12月頃にかけて出現
体長14mm~16mm
北海道から沖縄にかけて分布
草原の花などを訪れる。住宅街に出現することもある
幼虫は水生で、腐食物を食べる
最も一般的なハナアブ。ミツバチに姿形が似ている