昆虫は多くの人(特に女性)に嫌われることが多い生き物だが、その中でもカメムシは、嫌われランキングでかなり上位に来ると言って差し支えないだろう。
なぜそこまで嫌われるのかと言えば、やはり臭腺から放たれる悪臭のせいであろう。
まるでパクチーのようと言われる青臭い匂いは強烈で、手につくと中々取れないほどである(ちなみに私はパクチーの匂いがそこまで苦手ではないので、カメムシも割と平気である)
密閉した容器に入れた状態で匂いを放つと、自身の命にも関わるというのだから、いかに強烈なものかがわかる。
さらにはカメムシは、ストローのような口で植物の汁を吸うため、農家さんにとっては害虫ということになる。
ここまでマイナス要素が重なると、さすがに昆虫好きの私でも擁護しきれない部分があり、実際カメムシが好きだという方には会った試しがないし、誰かにカメムシを熱弁すると、十中八九どころか十中十ドン引きされる。
ところが今回紹介するシロヘリクチブトカメムシに関しては、胸を張って事情が異なると言える。
何が異なるのかというと、食性が肉食なのだ。
シロヘリクチブトカメムシの主食は、チョウやガなどの幼虫である。名前にもある他のカメムシよりも太いストロー状の口で、チューチューと体液を吸うというなんともホラーな食事をする。
イメージとしては同じカメムシの仲間で、水性昆虫の王とも言えるタガメに似たような感覚だ。
さて、シロヘリクチブトカメムシの主食を知ったところで、勘の良い方はもう気付いているかもしれない。
チョウやガの幼虫と言えば、植物を食べる農家さんの天敵。それを食べるということはすなわち、シロヘリクチブトカメムシは益虫ということになるのだ。
彼らが繁殖すると農薬いらずと言う方もいるので、貢献度的には中々なのではないだろうか。
嫌われ昆虫として名高いカメムシだが、実はこのような人々に貢献している者もいるのである。
ちなみに匂いに関しては明確な記述のある物が見つからなかったので、興味がある方は触って確かめてみよう。
生態的な話をすると、南方系のカメムシで、かつては九州まで南下しないといなかったらしいが、温暖化の影響か、現在は我が埼玉県でも普通に生息している。
カメムシというと、幼虫と成虫でフォルムや模様がまったく異なる種類が多いが、シロヘリクチブトカメムシもそこは例に漏れず、にわかには同種と信じられない。
ちなみに今まで散々上げておいてあれだが、幼虫が集合した姿は昆虫が苦手な方からしてみたら、戦慄の光景になるだろう。
個人的には両サイドにトゲがあって、全体的にシュッとしたフォルムなので、格好いいと思うカメムシランキングでベスト3に入るほどお気に入りの種類である。
従来のカメムシの概念を大きく覆し、我々の役に立っているシロヘリクチブトカメムシが、もっと多くの人に広まって、カメムシの奥深さを知っていただきたいなとつくづく思う。
【シロヘリクチブトカメムシ】
成虫は5月~11月頃にかけて出現
体長12mm~16mm
南方系の種類だったが現在は関東まで分布を広げている
草原や休耕地等に多く生息
チョウやガの幼虫等を捕食
肉食性のカメムシ。芋虫の体液を吸う。