アブの仲間は日本にかなりの種類がおり、その辺の土手を歩くだけでも多くのアブを目撃することができる。
その見た目はというと、ハエ目に分類されていることもあってハエに近い見た目をしており、時にはハチに擬態するために、ハチ模様を携えている種類も存在する。
そんなアブの中で、明らかに他の種類とは一線を画すルックスをしているのが、今回紹介するビロードツリアブ(ビロウドツリアブ)だ。
画像を見ればお分かりいただけると思うが、明らかに色々とおかしい。
アブの仲間どころか、昆虫界全体を探してみても、こんな見た目をした者がいるだろうか。
そんなビロードツリアブを細かく見ていこうと思うが、まず変わっているのはそのもふもふな体だ。
ビロードツリアブのもふもふな体はSNSでも人気を博しているほどだが、実は早春から活動し始める昆虫は、毛深い種類が多い。
ビロードツリアブも早い者は3月頃から活動し始めるので、このもふもふな体も納得である。
ちなみにビロードツリアブは、成虫で活動するのが春だけなので、夏の気候を考える必要がないため、この春仕様のもふもふも納得である。
このもふもふが、織物の1種であるビロードの表面に似ていることから「ビロード」ツリアブと命名されたため、ある意味代名詞的な感じとも言えよう。
次に特徴的なのが、その飛び方だ。春の林縁等を飛び回るのだが、そこではホバリングをしている個体をよく見かける。
ホバリングしている様が、まるで糸に吊られているようだということから、ビロード「吊り」アブと命名された。
そしてやはり、最大の特徴はその長い口だろう。
始めて図鑑で見た時は、あまりの口の長さに何かの冗談だろうと思っていたが、実際にこの目で目撃してしまった今、この事実を受け入れる他なくなってしまった。
さて、そんな驚きの形態は、和名のどこに入っているのかと思ったが、皆さんすでにお気付きのように、和名にその事に言及する部分は存在しない(ちなみに私は、口の長い様が釣り竿のように見えることから、ビロード「釣り」アブと名付けられたと勝手に思い込んでいた)
いやいやこれはおかしいだろう。私はもふもふの昆虫やホバリングする昆虫は他にも見たことがあるが、こんなに不自然に口が長い昆虫は、どう思い返しても見たことがない。私に命名させるのであれば、この昆虫は「モフモフクチナガアブ」だ。是非とも変えていただくよう抗議していきたい所存である(まあぶっちゃけ、ビロードツリアブの方がかっこいい)
茶番はさておきさらに話を進めると、基本線が茶色い本種だが、割と色味に個体差があり、黒っぽいのやら白っぽいのやらが存在するので、見かけたときは気にしてみると面白い。
また、幼虫はヒメハナバチ類の幼虫に寄生して育つ。
この事を聞いた私はなんとも複雑な気持ちになったが、皆さんはどう感じただろうか。
そんなビロードツリアブであるが、前述の通り成虫を見られるのは春の間だけなので、見たい方は早めに探しに出掛けてみよう。
いる所にはたくさんいるため、きっとあなたを楽しませてくれるはずである。
【ビロードツリアブ】
ハエ目ツリアブ科
成虫は3月~5月にかけて出現
体長8mm~12mm
北海道から沖縄にかけて分布
日当たりの良い林縁等に生息
幼虫はヒメハナバチ類の幼虫に寄生する。
個性的な見た目のアブ。成虫は春のみに見られる。