昆虫界には春にしか現れない期間限定なものが存在する。そうした昆虫を愛好家たちは見逃すまいと、必死に追いかけていくものである。
今回ご紹介するキバネツノトンボも、そんな春にしか現れない昆虫の1種である。
キバネツノトンボは4月下旬から6月上旬頃に成虫が現れる。
拓けた草原環境を好むため、植生遷移の進んだ場所では姿を消しており、多くの都道府県でレッドデータに記載のある希少な昆虫と言えよう。
ただ、生息地では多くの個体が見られることも珍しくなく、場所さえ特定できればかなり高い確率で見ることができる印象だ。
食性は肉食で、飛びながら小さな昆虫等を捕食し、飛びながら食べるという、なんとも忙しい生態をしている。
そもそもキバネツノトンボは、中々変わった容姿をしている昆虫と言えよう。トンボといいつつ、トンボというにはなんともトンボらしくない見た目で、触角の先はチョウのように丸くなっている。
黄色の鮮やかな差し色が特徴で、見た目のインパクトだけでも他の昆虫とは一線を画す魅力がある。
また、羽を開いて止まる時と閉じて止まる時があり、フォルムがだいぶ異なる。皆さんはどちらの止まり方が好みだろうか。
そんな独特なキバネツノトンボであるが、実はトンボの仲間でもないし、チョウの仲間でもない。
アミメカゲロウ目という、アリジゴクでお馴染みのウスバカゲロウ等と同じ分類になる。そうなってくると、なぜキバネツノカゲロウでなくキバネツノトンボという名前にしたのか、甚だ疑問なのは私だけだろうか。
キバネツノトンボの分類は、実は幼虫を見ると一目瞭然である。
成虫は鮮やかでかわいらしい見た目をしているが、幼虫は一転、トゲトゲで大きなクワガタのようなアゴがあるという、成虫とは似ても似つかない、いかつい見た目をしている。しかもこれが、集団で固まって過ごしているので、虫嫌いの方からしてみたら、悲劇でしかないだろう。
キバネツノトンボの幼虫は、よくよくみるとウスバカゲロウの幼虫と似たような見た目であり、なるほどそう考えると、ウスバカゲロウと同じ分類というのも納得である。
そんな成虫と幼虫で2度美味しい(?)キバネツノトンボだが、やはり他の昆虫とは一線を画すようなフォルムはテンションが上がる。
鮮やかな色使いと希少性、春にしか出現しない等、昆虫好きの心をくすぐる材料を兼ね備えている。
あなたもキバネツノトンボを見て、独特な魅力に触れてみてはいかがだろうか。
【キバネツノトンボ】
アミメカゲロウ目ウスバカゲロウ科
成虫は4月~6月頃にかけて出現
体長20mm~25mm
本州・九州に分布
乾燥した草原等に多く生息
小さな昆虫を捕食する
黄色の羽とフォルムが独特な昆虫。幼虫はウスバカゲロウのような見た目をしている