春の訪れと共に活発になる昆虫たちだが、成虫が春のみの短い期間発生する者も結構存在する。
とりわけ春だけ活動するチョウはスプリングエフェメラル(春のはかない命の意味)と呼ばれ、高い人気を誇っている(チョウ以外の昆虫もスプリングエフェメラルと呼ばれることがあるが、チョウに比べると一般的ではない)
今回はそんなスプリングエフェメラルの1種であるミヤマセセリを紹介する。
ミヤマセセリは文字通りセセリチョウの仲間である。しかし、イチモンジセセリやチャバネセセリのような、セセリチョウ独特の止まり方はせず、他の蝶と同じように、普通に羽を広げて止まる。
また、他のセセリチョウと比べても大型の部類に入り、セセリチョウと思ってみてみると、ボリューム感がある。
オスの前羽は白い樹皮のような模様をしているのに対し、メスは白い帯がはっきりと出るような模様をしている。それが鮮やかなので、メスの方が人気があるという噂を聞いたことがある。
また、これはセセリチョウあるあるだが、茶色く地味な色をしているので、知らない方が見たら蛾だと思われる定期である。
飛び方もひらひら蝶のように、というより俊敏に飛んでいることの方が多いので、余計に蛾だと思われてしまうだろう。
もっとも蝶も蛾も根本的に同じような種類なので、まあ気にしないことである(適当)
和名にもあるミヤマは漢字で書くと「深山」となるが、ミヤマセセリはそこまで山奥でなくても生息している。いわゆる里山と呼ばれるような所に多く生息しているのだが、近年はそうした環境が減ってきてしまっているので、数を減らしている。
私が住む埼玉のベッドタウン周辺にも、昔は普通に生息していたようだが、現在は遠出をしないと見れないような蝶になってしまった(ちなみに埼玉県では準絶滅危惧種に指定されている)
前述の通り、成虫は春にしか出現しないわけだが、それ以外の季節はどうしているかというと、春に産み付けられた卵は初夏前には孵化し、その後来年の3月頃までずっと幼虫で過ごし、そこから蛹になって羽化する。すなわち幼虫の期間がものすごく長い。
基本的に成虫の期間が短い蝶は何かの期間がとても長くなる傾向にある。
たとえば同じくスプリングエフェメラルのウスバシロチョウは卵の期間が長く、コツバメは蛹の期間が長い。
もっと満遍なくていいんじゃないのかとも思うが、よくよく考えたらセミは数年幼虫でいるので、それより遥かにマシであろう。
そんなこんなで、ミヤマセセリはまだ少し肌寒い季節から出現し始める。そんな彼らの一番隊が現れた時、我々にとって本格的なシーズンインを意味すると言っても過言ではない。
ぜひとも里山のミヤマセセリを探しに行ってみよう。
【ミヤマセセリ】
チョウ目セセリチョウ科チャマダラセセリ亜科
成虫は3月~4月頃にかけて出現
前翅長14mm~22mm
北海道から九州にかけて分布
雑木林の林縁等に多く生息
食草はブナ科のコナラ属各種