春から夏に季節が移り変わる時、人々が行うことといえば衣替えである。学校や会社等、恒例行事となっているところも多いのではないだろうか。
そしてチョウの中にも、春と夏で大幅な衣替えを行うものが存在する。それが今回ご紹介するサカハチチョウである。
サカハチチョウは、タテハチョウの仲間だが、他のタテハチョウと比べるとだいぶ小柄で、縄張りを闊歩して飛んでいるタテハチョウたちと比べると、それほど目立つような存在ではない。
登山道や林道等が主な生息地で、山登りをしている人の汗を吸いにやって来ることもしばしばある。
そして、生息地からもわかるように、山地性のチョウであり、平野部でお目にかかることは滅多にない。サカハチチョウが生息しているかどうかで、山地かどうかの目安ともなるわけである。
分布自体は北海道から九州まで幅広く、山地では珍しいチョウではないが、都市部に暮らしていると中々レアなチョウであるといえよう。
冒頭でも少し触れたが、サカハチチョウ最大の特徴といえば、春型と夏型の模様がまったく違うという点である。画像を見ていただければ一目瞭然だが、春型は黒地にオレンジの複雑な模様が特徴的だが、夏型は一転、オレンジの部分がほとんどなく、イチモンジチョウに近いような白いラインが入った模様となる。ここまで模様が変わると、知らない方は同じ種類だと信じられないのではないだろうか。
和名のサカハチチョウの由来もここから来ており、漢字で表すと「逆八蝶」。つまり八を逆さにした模様が入っているチョウという、なんだかおしゃれな和名が付けられているというわけだ。
チョウの仲間で、春型と夏型で色が変わったり模様が変わったりすること自体は珍しいことではないが、ここまで大胆に模様を変える種類はそうそういない。まさに華麗なる衣替えを披露しているといったところだ。
ちなみに、裏面は春夏さほど変化せず、複雑な模様が入った感じになる。
そんなサカハチチョウだが、比較的よく止まるチョウなので、観察はしやすい。前述の通り人の汗を吸いに来ることもあれば、各種花を訪れたり吸水したりする姿なんかも見ることができるだろう。
そして春と夏とでこれほどまでの違いがあるのだから、その違いを楽しまない手はない。地域によるが、春型は5月頃。夏型は8月頃によく見られるので、その辺りを意識して探してみよう。
みなさんもサカハチチョウの衣替えを楽しんでみてはいかがだろうか。
【サカハチチョウ】
チョウ目タテハチョウ科タテハチョウ亜科
成虫は5月~8月頃にかけて出現
前翅長20mm~25mm
北海道から九州にかけて分布
登山道や林縁等に多く生息
食草はイラクサ科のコアカソやイラクサ等
小型なタテハチョウ。春型と夏型で大幅に模様が変わる