夏が過ぎ、秋の風が吹いてきた頃の河川敷を歩くと、モンシロチョウでもモンキチョウでもない蝶が、素早く横切っていくのを度々見かけるようになる。その蝶こそがヒメアカタテハだ。
名前の通り赤、もといオレンジの羽がトレードマークで、模様も複雑なので、身近な蝶にしては中々の存在感を放っている。
ひなたぼっこのためか、道端に羽をペターっと開いて止まってることもよくあるので、余計にその存在が目に付く。
タテハチョウの仲間と言えば、裏面はまるで木の葉のような色合いで、なんとも地味な者が多いが、ヒメアカタテハの裏面はなんともエキゾチックな模様だ。
この辺もちょっと特別な存在感を感じるのは私だけだろうか。
ヒメアカタテハは文字通り小さいアカタテハのことであり(昆虫界では小さいことを「姫」と表現することがしはしばある)ということはすなわち無印のアカタテハも存在するのだが、私が住んでいる埼玉のベッドタウン周辺では、アカタテハは中々見つからない。
ヒメアカタテハは草原性の蝶で、他のタテハチョウが大好きな樹液や果実、獣糞等を訪れることがないため、開けた河川敷のような環境と相性がいいということがある。一方のアカタテハは花のほかにも樹液や果実等を嗜む、いかにもタテハチョウらしい食性で、雑木林の周辺に多く、そうした生態も、私が住んでいる地域でヒメアカタテハばっかりな一因と言えるだろう。
ちなみに冒頭で、秋に度々見かけると記載したが、春から秋まで長い期間見ることができる。
アカタテハやキタテハ、ルリタテハ等、長い期間見られるタテハチョウの仲間は成虫で越冬する者が多いので、ヒメアカタテハも長年成虫で越冬するものだと思われていた。ところが、春に出てくる個体があまりにもキレイすぎるという事で、実は成虫で冬を越さないのではないかという仮説が立てられた。そうして研究を重ねた結果、幼虫や蛹で越冬する個体もいるということがわかったのだ。(比較的暖地性の蝶なので、暖かい地域でないと成虫越冬できないという噂もある)
おそらくは様々な環境に適応出来るように進化した結果なのだろう。しかしどれもイケる口とは、中々大したものである。
また、ヒメアカタテハは移動性の高い蝶としても知られており、本種が越冬できないとされる関東よりも北のエリアで見られるものは、はるばる移動してきた者ということになる。
オスの縄張り意識も高く、オス同士や他の蝶と追いかけ合っている姿もよく目にする。
ヒメアカタテハという名前で、模様も可憐。それでいて花にしか訪れないという気品高き存在かと思えば、生態を見てみると実にたくましく生きていることがわかる。
蝶は案外見かけによらないということだ。
秋の河川敷でヒメアカタテハの気品の高さとたくましさに触れてみるのも、また乙なものである。
【ヒメアカタテハ】
チョウ目タテハチョウ科タテハチョウ亜科
成虫は4月~11月頃にかけて出現
前翅長25mm~33mm
北海道から沖縄にかけて分布するが、土着しているのは関東以西
開けた草原や休耕地等に多く生息
秋になると数が増える。開けた草原を素早く飛び回る