私の出身地である埼玉のベッドタウンは、ヒョウモンチョウの仲間を見かけることがあまりなく、私にとっては身近とはとても言いがたい存在だった。
ところがここ10年ほどですっかり身近な蝶の名を欲しいがままにしたのがツマグロヒョウモンである。
ツマグロヒョウモンは温暖性の蝶で、近年の温暖化によって分布をどんどん北上させている。
そのためナガサキアゲハやクロコノマチョウ等と同様、地球温暖化の指標となる種類として知られている。
最初に埼玉で見られるようになったのはいつ頃だっただろうか。
そんな悠長なことを言っている間に定着していった印象だ。
パンジーやスミレ等の園芸植物を食草としているためか、今や住宅街の片隅でも見かけるし、河川敷に行けば乱舞している姿を目撃するほどになった。
モンシロチョウやキタテハといった日本代表選手に比べて一回り大きく、模様もヒョウモンチョウの仲間だけあって、中々複雑で派手なものである。
そのため私が住んでいる周辺では、垢抜けたファッションリーダーのような風格を漂わせている。
そんなツマグロヒョウモンだが、メスはさらに特徴的な模様をしている。
前羽の広い範囲が黒くなっており、一目でツマグロヒョウモンのメスだとわかるルックスになっている。
もちろん和名もここから来ており、ツマグロヒョウモンをツマグロヒョウモンたらしめている最大の特徴だと言えるだろう。
この模様は、なんでも有毒種のカバマダラに擬態しているのだと言うが、いかんせんカバマダラは南西諸島の蝶で、無論我らが埼玉県では見ることなどないので、その擬態が機能しているのかは未知の領域だ。要するに完全に先走って北上しすぎである。
しかしそう考えると、なぜメスだけがそうした模様になったのか疑問である。オスも一緒にそうした模様になっておけばよかったのではないかと素人目に思ってしまうが、そこは何か本人にしかわからない事情があるのだろう。
生態的な話をすると、他の大型ヒョウモンチョウの仲間の多くが夏眠をするのに対して、ツマグロヒョウモンはそんな事はなく、夏だろうがお構いなしに飛び回っている。
また、他のヒョウモンチョウが年に1回だけの羽化とするのが多いのに対して、年に4回から5回ほど羽化する。
そのため春先から晩秋まで非常に長い期間見られる蝶だ。
特に秋には数が多くなり、近所の河川敷に行くと、モンシロチョウやモンキチョウといった他の蝶と共に、元気に飛び回っている。
近年すっかり関東でも普通種の称号を得たツマグロヒョウモン。
温暖化の影響ということで、手放しで喜んでいいものか微妙なところではあるが、私は素直にこの美しい蝶が飛び交っている姿を楽しみたいと思う。
チョウ目タテハチョウ科ドクチョウ亜科
成虫は4月~11月頃にかけて出現
前翅長27mm~38mm
以前は西日本にしか見られなったが、現在は関東北部でも普通に見られる
日当たりの良い休耕地や河川敷の草原等に多く生息
食草はスミレ科の各種
温暖化の指標になる蝶。近年分布域を北上させている。