夏の暑さもだいぶ落ち着いた頃、草原や林間の日だまりの花々を賑やかに飛び交うヒョウモンチョウがいたら、その多くはミドリヒョウモンだ。
大型ヒョウモンチョウの中では最も普通種とされている。しかし、私の出身地である埼玉南部のベッドタウン周辺には、ごくまれに他の蝶に混じって飛んでいるくらいしか見かけない。よって私にとってヒョウモンチョウの仲間というのは身近な蝶とは言い難い存在だ。(近年は温暖化の影響か、ツマグロヒョウモンがかなり見られるようになったが、子どもの頃はほとんど見たことがなかった)
埼玉で言うと中部や西部の山の近くまで行けば普通に見ることができる。
ところで私は両親が群馬の山間部の出身で、いわゆる「おじいちゃんの家」がそっち方面にある。そのため子どもの頃はお盆休みになると、よく泊まりがけで連れて行ってもらったものだ。
そこにはオオムラサキやカラスアゲハ、スミナガシ等といった自宅の周辺ではまず見られない蝶が普通に飛び交っており、まさに蝶大好き少年垂涎の環境が整っていた。
ところがそんな恵まれた環境だったにも関わらず、ヒョウモンチョウの仲間は1度も見たことがなかった。少年時代の私にとって、ヒョウモンチョウの仲間はまさに幻の蝶だったのだ。
そんなある年、たまたま法事があった関係で普段は訪れることのない10月におじいちゃんの家に行くというイベントがあった。そうしたらなんと、ヒョウモンチョウがあちこちで飛び交っているじゃあーりませんか。
少年はその時、ヒョウモンチョウは幻の蝶ではなく、秋の蝶だと知ったのである。
実はこのからくりは、ヒョウモンチョウの仲間の多くが、初夏に羽化をした後、盛夏に夏眠をするという習性があるために起こったのだ。
ミドリヒョウモンも例に漏れず夏眠をするため、夏にはパッタリ見かけなくなっていたのだ。
なので正確にはミドリヒョウモンは初夏と秋の蝶ということになる。
ちなみに夏眠明けのミドリヒョウモンは羽化してから長い時間が経っているため、羽がボロボロの歴戦の跡を覗かせる個体が多くなる。
ヒョウモンチョウの仲間と言えば、どれも同じような模様をしており、見分けるのが難しいことで有名である。
私もよく見る者に関しては見分けることができるが、あまり見ないような種類となると、見分けられる自信はまったくない。
ヒョウモンチョウの見分け方だけでも、下手したら3、4記事書けそうな気もするので、今回は詳しくは割愛させていただくことにする。
スミレ科を食草としているが、なぜかスミレの葉に直接卵を産まず、周囲の樹の幹に産卵をするらしい。
なぜそんな事をするのか、調べてもわからなかったので、謎は深まるばかりだが、「自力で食事にありつけない者は蝶失格だ」という親からの洗礼なのだろうか、いずれにしても、産まれながらにしていきなり旅を強いられるミドリヒョウモンの幼虫は、中々大変なようである。
ともかく他の蝶とはちょっと違う変わった生き方をしているミドリヒョウモン。
秋に山間部を訪れた際はきっと大勢でお出迎えしてくれるはずなので、追いかけてみてはいかがだろうか。
【ミドリヒョウモン】
チョウ目タテハチョウ科ドクチョウ亜科
成虫は6月から10月頃出現するが、低山地では盛夏に仮眠をする
前翅長31mm~40mm
北海道から九州にかけて分布
林縁の草原等でよく見られる
食草はスミレ科の各種
最も普通に見られる大型ヒョウモンチョウ。