夕焼け小焼けのなんとやらであまりにも有名な赤とんぼ。もはや日本人であれば知らない人はいない存在だろう。
特に秋に群れている姿をよく見ることから、夕焼けとの相性が抜群であり、この曲もそうしたところから作られたのだろう。
実は「アカトンボ」という和名のトンボは存在しない。アカトンボというのは、文字通り赤いトンボの総称を指しているのだが、そんな赤とんぼの代表格はなんといってもアキアカネだ。
ちなみにメスは全体的に赤みが抑えられており、また、羽化してから間もない未成熟の個体も赤くないので、詳しくない方には赤とんぼに見えないこともあるかもしれない。
文字通り秋に最盛期を迎えるトンボだが、これにはからくりがある。実はアキアカネは暑さが苦手であるために、夏の暑い時期は高山帯に避暑に向かうので、平野部では見られなくなるのである。なので、夏休みに避暑地に行かなかった方は、アキアカネを盛夏に見ることはできない。
そして夏が過ぎ、秋の訪れを感じられるようになると、一斉に山を降りて平野部に戻ってくる。
しかしあの小さな体でよくもまあそんな長距離移動ができるものである。私など、近所のスーパーに行くにも最近は車を出すようになってしまったので、少しはアキアカネを見習わなければいけない。
もしかするとこれを聞いて、「ちょっと待てよ、、?」と思った方がいらっしゃるかもしれない。「いやいや夏に赤とんぼ見たことありますけど!?」と。
確かに夏場の平野部でも赤とんぼは存在するのだが、それはおそらくアキアカネではなくてナツアカネだ。
ナツアカネはアキアカネと違って、そこまでの大移動をすることがないトンボなので、夏場でも普通に平野部を飛んでいる。
詳しくない方にはまず違いがわからないので、同じ種類のトンボが飛んでいるようにしか見えないだろう。昆虫界ではこのように、似たような別種というのがかなり多く存在しているので、頭が痛いところである。
ちなみに、色味等見分け方は色々あるが、一番わかりやすいのは胸部側面の模様だ。画像にまとめたので、詳細はそちらで確認していただきたい。
ところでいつだったか、しばらく前に赤とんぼが減っているという新聞記事を読んだことがある。「そんな馬鹿な」と思ったが、やはり実際に2000年代になってからその数は急激に減っているようだ。農薬散布や開発等が主な原因だと考えられている。毎年多くの生物が絶滅したり絶滅の危機に瀕したりしているので、アキアカネに関しても他人事とは言えないみたいである。
しかし私が暮らしている地域には、毎年元気にたくさんのアキアカネが空を飛び回っている姿を見せてくれる。
有名な歌のモデルにもなっているほどのトンボなのだから、そう易々と減ってしまうわけにもいかない。
秋の風物詩は今年も私たちの前に姿を現して、風情を感じさせてくれるのだ。
【アキアカネ】
トンボ目トンボ科
成虫は6月から11月頃出現する。7月から8月は避暑のため高山帯で過ごす
体長36mm~43mm
北海道から九州にかけて分布
水田や湿地、池沼に多く生息
小さな昆虫を捕食
赤とんぼと言ったらこの種。日本を代表するトンボだ。