トンボといえば皆さんご存知の通り、飛翔力の高い、細長い体をした昆虫の事である。
赤とんぼやオニヤンマ等、広く知られている種類も多く、親しまれている。
そんなトンボの常識の中で考えても、明らかに細い体をしているのがイトトンボである。
イトトンボは、まるで細かく切った針金が飛んでいるのかと思うほどの細さを誇っているトンボとして知られ、やはりトンボよろしく水辺の周辺で見られることが多い。
そして、そんなイトトンボの中でもさらに細さを極めたのが、今回紹介するホソミイトトンボだ。
その和名からもわかるように、イトトンボの前にさらに「ホソミ」と付いているのだから、よっぽど細い種類だと言える。
私が実際に生で見たときも、これはいくらなんでも細すぎだろ、と思ったくらいに細いと感じた。
そんなイトトンボの中でも常識破りの細さを誇るホソミイトトンボだが、生態においても他のトンボとは一線を画しているところがある。
それは成虫で冬を越すという点だ。
普通トンボは幼虫、いわゆるヤゴの状態で冬を越す者が多いが、ホソミイトトンボは成虫のまま冬を越し、冬を越した後に繁殖する。
ホソミイトトンボは通常、水色の美しい体色をしているのだが、越冬の際はその体色を茶色っぽい色に変えるという性質がある。
秋頃に見られる個体はすでに茶色に変化しているので、そんなホソミイトトンボを見かけたら、冬の準備をしているというわけだ。
ちなみに越冬して春を迎えた個体は再び青く色付くという、なんともロマンチックな一面を持っている。
なぜこのように体色を変えるのかというと、木の枝の色に似せるためである(いわゆる保護色)そのため、ただでさえ細いホソミイトトンボの冬眠中の個体を見つけるのは至難の技である。
ちなみに、同じく成虫越冬するホソミオツネントンボも褐色の状態で越冬するので、成虫越冬する者にとってはマストな戦略と言える。
私がホソミイトトンボをよく見かけるのは渓谷から少しそれた林道なのだが、これはホソミイトトンボが羽化後に水辺を離れて生活をするためである。
羽化後に一旦水辺を離れるトンボは意外と多く、赤とんぼとしてお馴染みのアキアカネ等も、羽化後に水辺を離れて生活する事で知られている。
個人的な感覚で言うと、イトトンボは子どもの頃見つけると嬉しかった昆虫である。私の出身地、埼玉のベッドタウンは、イトトンボ自体があまり見られなかったために、レアだったのと、小さな体に美しい体色が幼心に琴線に触れる部分があった。
そんな中で見つけたホソミイトトンボは、一瞬で私のお気に入りの1種になった。
目を凝らさないと中々見つけられないような姿をしているが、その細さを是非とも実感していただきたい。きっとあなたも驚くはずである。
【ホソミイトトンボ】
トンボ目イトトンボ科
成虫は3月~12月にかけて出現。また、成虫で越冬する。
体長は28mm~34mm
本州から九州にかけて分布
池や沼、その周囲の林縁等に生息
小さな昆虫を捕食
あまりに細いイトトンボ。越冬個体は茶色に変化する。