皆さんは、キリギリスというとどんな昆虫を想像するだろうか。草むらの中にいる緑のバッタっぽいアイツを思い浮かべる方がほとんどだろう。そんなキリギリスの仲間に、黒塗りの高級車のような装いをした者が存在する。それが今回紹介するヒメギスだ。
前述の通り、とにかく特徴は黒い。墨汁でもかけられたのかと疑いたくなるほどに黒い。色合い的にはキリギリスよりもコオロギと言った方がしっくりくるだろう。
ちなみにヒメギスは幼虫の頃からすでに黒く、明らかに草むらで異彩を放っている存在と言っても過言ではない。
さてここで、私は全身全霊を込めて「異議あり!」と申し上げたい。それはヒメギスという和名に対してである。
ヒメギスは漢字で書くと「姫螽蟖」要するに小さなキリギリスという意味である。
まあ確かに、ヒメギスはキリギリスよりも一回り小さいので、そうした和名が付けられるのも妥当っちゃあ妥当かもしれない。しかし、冷静に考えていただきたい。どう考えてもこやつの名にふさわしいのは「クロギス」だ!!!
クロギスだったらどれだけ分かりやすかったことか!おかげで私はフィールドワークする度に「あーコイツだコイツ、あれだ、、あれよ、、、あれ、、、あのー、、、ヒメギスだ」みたいな感じになってしまうんだ!どうしてくれるんだ!!責任取ってくれよ!!(記憶力が悪いだけでは?)
取り乱したが、改めてヒメギスの生態を見ていこう。
食性は各種植物やその他の昆虫を食べる雑食性。キリギリスに比べて昆虫はあまり食べず、植物をより好むようだ。
メスのお尻に付いている産卵菅は、キリギリスやヤブキリ等と比べて短く、ちょっと上向きになっている。上記の2種類が土中に産卵するのに対して、ヒメギスは植物の茎に産卵するので、長い産卵菅が必要ないのだろうと個人的に考えている。
黒塗りの高級車のような見た目だが、実は結構身近な所で見られる普通種である。「私こんな黒いキリギリスなんて見たことないわよ」と通りすがりのマダムに言われそうだが、それはヒメギスが草むらの中にいて目立たないからである。
これはヒメギスに限らず鳴く虫全般に言えることだが、彼らは基本的に草かげを主戦場としているため、声はすれど見つからない現象が起きやすい。
しかも少しでも不用意に近付けば途端に鳴くのを止め、草の奥に逃げ込んでしまう。そりゃあ見つけるのが難しいわけである。
肝心の鳴き声について触れていたかったが、「ジージー」というか「ジリリリ」というかそんな感じである(適当)
まあ、その辺の草むらで大きい声で鳴いている昆虫がいたら、大体ヒメギスである(適当がすぎないか?)
ヒメギスにはかなり似ているイブキヒメギスという種が存在するのだが、こちらは山地性で、関東平野ど真ん中在住の私が近所でお目にかかる事はない。
一方で、コバネヒメギスなるものも存在する。その名の通り羽が小さいヒメギスで、パッと見幼虫かと思ってしまうルックスだ。こちらは平野部にも普通に生息しているので、注意して見てみると面白い。
そんなこんなで知らぬ間に身近な所に存在していたヒメギス。いる所にはめちゃくいゃいるので、なんとか目を凝らして探してみよう。独特の黒塗りがあなたをお出迎えしてくれるはずである。
【ヒメギス】
バッタ目キリギリス科キリギリス亜科
成虫は6月~9月頃にかけて出現
体長17mm~27mm
北海道から九州にかけて分布
湿り気のある草地に多く生息
様々な植物や他の昆虫を食べる
黒い体色のキリギリス。身近な草地でも割と生息している。