我が国日本では、実に250種類を越える蝶が生息しており、色とりどりの羽で昆虫愛好家の方々を楽しませている。
そんな中で、我が国唯一の称号を獲得する(正確には獲得していた)蝶が存在する。それが今回ご紹介するテングチョウだ。
テングチョウはタテハチョウ科に属する蝶で、初夏にかけて羽化し、夏眠をした後再び秋に活動再開。そのまま成虫で冬を越して、翌春に子孫を残すという生態をしている。
私が住んでいる埼玉のベッドタウン周辺で見かけることは滅多にないが、ちょっと遠出をして自然豊かな里山に行くと、あちこちで飛び回っているのを目にする。
さて、そんなテングチョウが我が国唯一の称号とは一体どういう意味なのかというと、日本で唯一のテングチョウ科の蝶だということである。いや、正確にはテングチョウ科「だった」
「だった」とはなんぞやというと、今はテングチョウ科からタテハチョウ科テングチョウ亜科に変わったのだ。これによりテングチョウは、日本で唯一のテングチョウ科という強烈な個性を失ってしまったのである(ちなみにテングチョウ亜科は日本では他にいないので、その点においては未だに日本唯一である)
私が子どもの頃持っていた図鑑には、テングチョウ科と記載のあるものとタテハチョウ科と記載のあるもの、どちらも存在したので、どうも私が子どもの頃に変更がなされたようである(歳がバレそうだ)
ちなみに日本国内に同じ亜科の種類が存在しない蝶としては、ベニシジミ、ウラギンシジミ、ゴイシシジミが上げられるが、いずれも他に類似種が存在せず、見分けるのが簡単である。
テングチョウがタテハチョウ科に変わったのも、裏面を見れば納得がいくというもの。見事なまでのタテハチョウライクな枯れ葉模様をしている。
この保護色を武器に、寒い冬をじっと耐えて乗り越えていくと考えると、なんともエモい話である。
また、ヒオドシチョウやゴマダラチョウ、オオムラサキ等と同じくエノキを食樹としているのも、タテハチョウ感を増幅させている。
というように、唯一の個性を失ってしまい、無個性な蝶に成り下がってしまったのか言えば、まったくそんなことはなく、実はテングチョウをテングチョウたらしめる強烈な個性が存在している。
それがパルピだ。
パルピとは、匂いなどを感知するセンサーのような役割を果たす、頭の先端に付いているとがった角のようなものを差し、特にタテハチョウの仲間によく目立つ。
とりわけテングチョウのそれは他の蝶に比べて明らかに長く、それが和名の由来にもなっている。
また、羽の形状も他の蝶にない独特な形をしており、シルエットだけで誰でも一目でテングチョウだとわかる。
と言ったように、科の分類では唯一無二ではなくなったものの、そんなの関係ねえとばかりに強烈な個性派の蝶なのだ。
そんなテングチョウは暖かくなりはじめた初春を彩る蝶の一種として、里山を飛んでいる。
あなたもそんなテングチョウの個性派な一面を覗いてみてはいかがだろうか。
【テングチョウ】
チョウ目タテハチョウ科テングチョウ亜科
成虫は6~7月頃羽化してその後夏眠。秋に活動再開し成虫のまま冬眠する。
前翅長20mm~29mm
北海道から沖縄にかけて分布
雑木林の林縁等に多く生息
食草はニレ科のエノキやエゾエノキ等
日本で唯一のテングチョウ亜科の蝶。長いパルピが和名の由来となっている