一般的にジャノメチョウの仲間というと、茶色地の羽に大きな目玉模様が特徴的なチョウのことを指し、各々思い思いの目玉模様をあしらっている。
そんなジャノメチョウの中で、他のジャノメチョウとは明らかに一線を画すような模様をしているのが、今回紹介するサトキマダラヒカゲである。
画像を見ていただければ一目瞭然だが、明らかに色々と複雑な模様をしている。
幼い頃の私は、昆虫図鑑を見ながら絵を描くのが好きだったのだが、サトキマダラヒカゲの絵は模様が複雑なので断念した記憶がある。
そんな模様をしているものだから、さぞかし珍しい種類なのかと思いきや、住宅街の公園なんかでもそこそこ木が生えていれば生息しているほどの普通種だ。
ただし目立つ色というわけでもなく、飛び方もなんだかバタバタとして素早いので、優雅な感じではなく、一見するとガに見える現象が起きやすいチョウとも言える。
ちなみに止まる時は必ず羽を閉じるので、表面を見たい場合は捕まえるか飛んでいるところをうまいこと写真に写すかしないといけない。
花を訪れることは少なく、樹液や果実等を好んで訪れる。
子どもの頃クワガタ捕りをする際に、よく本種が飛んでいるのを目印にして樹液の出る木を探したものである。
また、サトキマダラヒカゲという和名も、馴染みのない方からすると複雑でわかりにくいのではないか。
和名を紐解いていくと、里に住む黄色いまだら模様のヒカゲチョウということで、サトキマダラヒカゲという和名がついたというわけだ。
さて、ここで勘の良い方はピンと来たかもしれない。
「里」に住む者がいるということは、人里離れた「山」に住む者もいるのではないかと。そう思った方、大正解である。
実はサトキマダラヒカゲとよく似た種類で、ヤマキマダラヒカゲなる者が存在する。
もっと言えばウラギンヒョウモンやジガバチ等、そっくりの種類で「サト」と「ヤマ」に分かれている者は割と存在しており、これを昆虫界では「きのこたけのこ代理戦争」と呼んでいる(大嘘)
しかしサトキマダラヒカゲとヤマキマダラヒカゲはスーパーウルトラそっくりであり、よくもまあ別種だと見破ったなと感心せずにはいられない。実際に昔は別種だと思われておらず、両種ともキマダラヒカゲと呼ばれていた。要するに、それだけそっくりな見た目をしているということだ。
一応基本的な見分け方としては、後羽付け根付近の模様の配列に違いがあるようだが、微妙な者も存在するので、なんとも悩ましいところである。(詳しくは下の画像参照)
私が実際に目撃した感覚だと、ヤマキマダラヒカゲの方が全体的に濃い色をしており、サトキマダラヒカゲはより淡い印象を受ける。
また、ヤマキマダラヒカゲは関東では高標高地に生息しているので、埼玉南部のベッドタウンに住んでいる私の周辺で見られるのは、サトキマダラヒカゲである(ちなみにサトキマダラヒカゲは高標高地でも普通に生息しているので、悪いのはサトキマダラヒカゲである)
とまあそんな代理戦争を行っているサトキマダラヒカゲだが、その複雑な模様は見れば見るほど美しさを感じる。
身近な所に生息するチョウではあるが、明らかに一線を画す羽の模様で我々を楽しませてくれるのだ。
皆さんもサトキマダラヒカゲを観察して、その羽の模様に魅了されてみてはいかがだろうか。
チョウ目タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科
成虫は5月~9月頃にかけて出現
前翅長26mm~39mm
北海道から九州にかけて分布
雑木林等に多く生息
食草はイネ科のササ類等
複雑な模様が特徴のヒカゲチョウ。ヤマキマダラヒカゲと酷似する。