昆虫散歩道

昆虫をあれこれ撮影してあれこれ語ります

イタドリハムシ・・・テントウムシ似の存在感のあるハムシ

赤と黒のカラーリングが特徴のイタドリハムシ

テントウムシといえば、日本で知らない方はほとんどいないであろう有名な昆虫のひとつだ赤と黒の派手なカラーリングに丸っこいフォルムがかわいい人気者である。そんなテントウムシにルックスを似せてきた昆虫は結構存在する。今回はそんなテントウムシに似ているイタドリハムシを紹介していこうと思う。

赤と黒の派手なカラーリングに模様もテントウムシより複雑で、なんとも凝ったデザインだ。テントウムシと同じく成虫で越冬し、春先から活動をはじめるあたり、見た目だけでなく中身も踏襲している。さらには危険を感じると死んだふりをするという点も、テントウムシと同じだ。
しかし、アブラムシを食べる肉食のテントウムシとは違い、イタドリハムシは植物の葉を食べる草食の昆虫である。
勘のいい方は気付いたかもしれないが、ハムシというのは葉を食べる甲虫ということで「葉虫」という名前が付いた大きくてもテントウムシほどというかなり小さな甲虫の一群で、イタドリハムシのように、食べる葉の種類がそのまま付いた種類も多い。
ウリハムシクロウリハムシ等、食べる葉の種類によっては、ハムシは害虫ということになってしまうが、イタドリは農作物ということもないので、基本的にイタドリハムシは、害虫というレッテルは貼られずに済んでいるようである。

クロウリハムシ。ウリ科の植物を食べる害虫とされる

前述の通り、イタドリハムシもハムシの仲間よろしく大きさが1cmに満たないほどで、小さな存在ではあるが、横幅がある分ハムシの仲間としては大きく感じる加えて赤と黒のカラーリングなので、生息地で探してみるとよく目に止まる存在だ。
他のハムシと比べて触覚が長い点も大きな特徴で、個体によっては体長の半分ほどの長さを誇り、かつギザギザなので、なんとも立派なものである。

そもそもこんなにも目立つ赤と黒のカラーリングなのは、テントウムシに擬態しているからと考えられているようである。これはテントウムシが危険を感じると、独特な臭気を放つため鳥等に食べられにくいがゆえに、テントウムシに似ている模様は効果があるというわけである。

また模様に個体差があるのも特徴で、赤の範囲が広いものや黒の範囲が広いもの。色が薄いもの等個性豊かなであり、それぞれの模様の違いを楽しむのも中々乙なものである。

赤の範囲が広い個体。模様は個体によってさまざま

派手な模様でまるでテントウムシのような風貌のイタドリハムシ。生態も共通点が多く、中身まで踏襲しているかわいい存在だ。
小さくも存在感のあるイタドリハムシを探して、愛らしさに触れてみてはいかがだろうか。

 

【イタドリハムシ】

甲虫目ハムシ科ヒゲナガハムシ亜科

成虫は3月~9月頃にかけて出現

体長8mm前後

北海道から九州にかけて分布

林縁や周辺の草地に多く生息

幼虫はイタドリ等を食べる

赤と黒が特徴のハムシ。成虫で越冬する。

 

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ゴイシシジミ・・・チョウの常識を完全無視した白黒のかわいい使者

ササに止まるゴイシシジミ。これがなかなかかわいい
チョウというと成虫は花の蜜や樹液などを吸い、幼虫は葉や草等の植物を食べるのが一般的である。しかし、そんなチョウの常識を真っ向から否定してしまう者が存在する。それが今回ご紹介するゴイシシジミである。
 
ゴイシシジミは日本のシジミチョウ科の中では、唯一のカニアシシジミ亜科(アシナガシジミ亜科)に分類されるチョウである。また。分類のみならず見た目も日本では似た種類が存在せず一発でゴイシシジミだという事がわかる。
 
名前の由来はもちろん黒点が散りばめられた羽の模様から来ている。この和名の付け方には個人的にセンスを感じるのだが、一方で表には碁石模様は存在せず、黒基調の地味な感じとなっている。表裏ともモノトーンの装いとなっており、見る方によっては地味だと感じるかもしれない。

半開きで止まる個体。表はかなり地味だ
ちなみにオスとメスでは前羽の尖り具合に違いがあるオスの方が尖っていて、メスは丸みを帯びている。もっともこれは他のチョウでも結構見られる雌雄の違いなので、割と応用が効く見分け方でもある。

雌雄の見分け方。他のチョウにも応用が効くことも

さて、ここまで分類的なところや、見た目について語ってきたわけだが、一体ゴイシシジミの何がチョウの常識を真っ向から否定してしまうのかというと、幼虫がアブラムシを食べるという点である。可憐なチョウの仲間としてはにわかには信じがたい話であるが、ゴイシシジミの幼虫はまるでテントウムシのような食性をしているというわけだ。
終齢幼虫のみ肉食のように、半肉食性のチョウは他にもいるが、純粋な肉食性となると日本のチョウの中では唯一であり、あまりにも尖りまくった生態であるといえよう。
また、成虫も花の蜜ではなく、アブラムシの分泌液をエサとするという変わった食の好みを持っている。つまり彼らは、幼虫も成虫もアブラムシが必要不可欠ということになる。
それゆえ、そうしたエサとなるアブラムシが生息する笹藪の周辺が生息地であり、ササ類を食草とするクロヒカゲやヒメキマダラヒカゲ等とよく混生している。

産卵するゴイシシジミ。アブラムシがいるところが産卵場所だ

個人的には、小さな体で葉の上にちょこんと乗ってる感じがめちゃめちゃかわいいと感じている。飛び方もゆったりでちらちらと飛んでおり、そんなところもかわいさ度を上げているポイントだ。

日本では他に類を見ない特徴を持ちまくっているゴイシシジミ個性に個性を重ねた上で、さらにかわいいという付加価値も付けてしまっては、探しにいかない手はない。
みなさんもゴイシシジミを探して、その個性の一端を垣間見てはいかがだろうか。

 

【ゴイシシジミ

チョウ目シジミチョウ科カニアシシジミ亜科

成虫は5月~10月頃にかけて出現

前翅長10mm~17mm

北海道から九州にかけて分布

笹薮のある雑木林等に多く生息

幼虫はササやタケにつくアブラムシを食べる

肉食性のシジミチョウ。黒点の模様が特徴的。

ヒメキマダラヒカゲ・・・スマートな形の羽に控えめな模様をあしらう

細身なヒメキマダラヒカゲ。主に高標高地に生息する

参考までにサトキマダラヒカゲ。どっしりした雰囲気

平地の自然公園等、木が多めの所にいけば大体生息している身近なチョウに、サトキマダラヒカゲという者が存在する。サトキマダラヒカゲはやや大型のジャノメチョウで、夕刻時に活発にバタバタと素早く飛ぶチョウである。そんなサトキマダラヒカゲと比べて、だいぶスリムなのが、今回ご紹介するヒメキマダラヒカゲである。

画像をご覧になればおわかりの通り、細長い羽をしているので、どことなくシュッとしている印象だ。大きさもサトキマダラヒカゲよりも一回り小さいので、余計にコンパクトな印象を受ける。
模様もサトキマダラヒカゲに比べると落ち着いており、どことなく上品さを感じる装いとなっている。

飛び方も比較的ゆったりとしており、余裕のある風情を感じる。

そんなヒメキマダラヒカゲだが、サトキマダラヒカゲと大きく異なるのが、分布域である。サトキマダラヒカゲが平野部にも広く生息しているのに対して、ヒメキマダラヒカゲは山地でないと生息していない北海道では平野部でも見られるようだが、本州以南では基本的に標高1000m以上の地域に分布している
つまり、埼玉県南部のベッドタウンに住んでいる私からしてみたら、そうそう見かけることのないチョウと言えよう。
ただ逆にいうと、山地に行くとそこまで珍しいチョウということもなく、ササの生えた樹林帯であれば、見つけるのは難しくない。

また、もう1点サトキマダラヒカゲと決定的に違うのが、羽を開いて止まることがあるという点である。
サトキマダラヒカゲは羽を開いて止まることがないが、ヒメキマダラヒカゲは、場合によっては半開きや全開などを使い分けるので、採集したりしなくても羽の表の模様を観察することができる。表の羽は裏よりも濃い茶色いで、黄色の斑点が絶妙な美しさを醸し出している。こちらもやはりサトキマダラヒカゲよりも控え目な模様だ。

普通に羽を開いて止まることもある

ヒメキマダラヒカゲは、花を好んで訪れる習性がある基本的に森林性の高いジャノメチョウの仲間は花を好んで訪れる者は少ないので、少し変わった食の好みを持っているといえよう。そうした花を好んで訪れるところにも、どこかヒメキマダラヒカゲにスマートさを感じる所以である。

吸蜜するヒメキマダラヒカゲ。気品すら感じる

スマートな見た目でお上品な装いのヒメキマダラヒカゲ。標高の高いところに生息しているので、避暑がてら探しにいくのもいいだろう。あなたも山の涼しい空気に触れながら、ヒメキマダラヒカゲを見つけてみてはいかがだろうか。

 

【ヒメキマダラヒカゲ】

チョウ目タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科

成虫は6月~9月頃にかけて出現

前翅長25mm~34mm

北海道から九州にかけて分布

笹の生えた樹林帯に多く生息

食草はイネ科のササ類等

羽が細身なのが特徴。高標高地を主な生息地とする。

 

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マルアワフキ・・・立派な体格で存在感を放つアワフキムシの代表種

丸いフォルムが特徴的なマルアワフキ。独特な見た目だ

人間というのは、気絶をする時に泡をふくものである。時に漫画などでは、かなり誇張して表現されるものであるが、昆虫の中には気絶もしていないのに泡をふくものが存在する。その名も「アワフキムシ」

あまりにもまんま過ぎる名前の昆虫だが、今回はそんなアワフキムシの仲間である、マルアワフキをご紹介しようと思う。 
 
まずそもそも、昆虫に詳しくない方からしたら、アワフキムシとはなんぞやという話であるが、文字通り泡をふく昆虫である、というとあまりにもまんますぎて雑な説明なので、もう少し深堀していこうと思う。
アワフキムシは分類でいうと、半翅目という分類になる。半翅目セミカメムシが属しているグループなので、要するにアワフキムシは、セミカメムシに近縁の昆虫という事になる。
そして問題の泡をふくという行為だが、これはアワフキムシの幼虫が行うこの泡がかなりしっかりとした泡であり、実際の人間は漫画のように泡をふかないが、アワフキムシは、もういかにも泡!といった感じで泡をふくそのふきっぷりときたら、植物周りが白くなるほどで、一目でそれと判断できるほどである。

マルアワフキの泡。スポンジで泡立てた感すらある
アワフキムシの幼虫はこのような泡で体を覆うことによって、外敵等から身を守っていると考えられており、いわば巣の役割を果たしているという事になる。
ちなみにこの泡の正体は、人間のように口からふいたものではなく、排泄物に空気を送って作られたものであるので、要するにアワフキムシは、排泄物で作られた巣で生活をしているということになる。そう考えるとなんとも言えない気持ちだ。
 
そんなアワフキムシの仲間のマルアワフキは、文字通り丸っこいフォルムをしているのが特徴で、他のアワフキムシと比べても、なんだかかなり立派な印象を持つ。いる所にはかなりの数がいたりするので、余計に存在感を感じるアワフキムシと言えよう。
足が短くちょこんとしているのでなんとも言えないかわいらしさがある。複眼にラインが入っておりなんだか眠そうな感じに見えるのもポイントが高い。

横から見てもなんだか変わったフォルム。結構かわいらしい
動きも鈍く、茎やら葉やらに止まっていることが多いので、観察もしやすい。ただ、人の気配を感じると、茎や葉の裏に隠れてしまう事があるので、あまり雑に近づきすぎるのは禁物だ。
また、斑紋には個体差が結構あるので、そうした違いをよく観察してみるのも面白いだろう。
 
意外と身近な所にいて存在感のあるマルアワフキ。茎に泡がついていたら、近くにいる証拠なので、泡を目印に探してみるといいだろう。
皆さんもマルアワフキの独特な世界観に触れてみてはいかがだろうか。
 
【マルアワフキ】
半翅目アワフキムシ科
成虫は5月~10月頃にかけて出現
体長8mm前後
北海道から九州にかけて分布
イネ科植物の多い草地等に多く生息
植物の汁を吸う
丸いフォルムが特徴的なアワフキムシ。生息地では群れていることもある。

ヨツボシトンボ・・・ミシュランには選ばれていない四つ星

水辺で中々の存在感を放つヨツボシトンボ

ひと昔前に、 ミシュランガイド選定するレストランが等が話題になった。ミシュランに選ばれた店は、世界的にも認められた店として、最高の称号を手にしたといえよう。
そして今回は、四つ星の名を冠するヨツボシトンボを紹介していこうと思う。

とはいっても、ヨツボシトンボはミシュランに選ばれたからヨツボシになったわけではない(当たり前だ)
羽の模様に着目するとわかるが、黒い点が4ヵ所に配してあるこの模様が和名の由来となっているというわけだ。
国内に似たようなトンボは存在しないので、見分けるのは容易だ。

正面から見ると羽に黒点が4ヶ所あることがよくわかる

トンボの仲間は雌雄で体色が大きく異なる者も多いが、ヨツボシトンボは雌雄とも同じような褐色で、サイドに黄色い模様をあしらっている。色が色だけに、一般的には中々目立たないトンボかもしれないが、結構がっしりとした体型なので、いざ水辺を飛んでいるところを見ると、中々な存在感を放っている。

メスも同じような体色をしている。体型はメスの方が太い

私が住んでいる埼玉県では、中々身近なトンボというわけではない。特に南部のベッドタウンでは、お目にかかることは中々ない。
それもそのはず、埼玉県では絶滅危惧Ⅱ類に分類されており、生息地は限られている。
埼玉県以外でもレッドデータに掲載している地域があり、特に関東では群馬県以外の6都県で掲載されている
それでもより自然度の高い地域に行くと、それほど珍しいトンボということもない。田んぼや湿地の周辺を歩けば、出会うのはそれほど難しくはないだろう。
また、暖かい地域にはそれほど生息していないようである。

国内ではベッコウトンボと近縁種とされるが、ベッコウトンボは絶滅危惧ⅠA類に指定されており、生息地もかなり限定されている(ちなみに私もまだ見たことがない)
ヨツボシトンボの方が幅広く生息しているので、まずはヨツボシトンボで肩慣らしをしてからベッコウトンボを探してみるといいだろう。

基本的な生態は他のトンボと大差ない。オスは水辺で縄張りを張り、メスは水辺の周囲に潜んでいることが多い。主に小さな昆虫を狩って食べるのも、他のトンボと同様だ。
交尾時間が数秒から数十秒とかなり短く、しかも飛びながら行うので、ムードもへったくれもあったものではない。

そんなヨツボシトンボだが、よく見ると中々おしゃれな造形をしており、目立たない色ながらなんとも芸術性を感じる。水辺を行き来する姿はなんともかっこいいものである。

 

【ヨツボシトンボ】

トンボ目トンボ科

成虫は4月~9月頃にかけて出現

体長42mm~49mm

北海道から九州にかけて分布

植物の繁茂した湿地や池沼等に多く生息

昆虫を捕食

羽の黒い点が特徴的なトンボ。雌雄でほとんど同じ色をしている。

ウスバシロチョウ・・・和名と見た目に騙されないように

白い羽が特徴的なウスバシロチョウ。しかしその正体は・・・

人は見かけによらないとはよく言ったもので、怖そうな人が実は優しかったり、その逆で優しそうな人が実は怖かったりといったことは多々ある。そんな見かけによらないといったことは、チョウの世界でも起こることがある。今回はそんな見かけによらないチョウ、ウスバシロチョウをご紹介していこうと思う。

 
実際の画像を見ていただいた方は、モンシロチョウに近い仲間なのかと思うだろう。そんな本種に付けられた和名はウスバシロチョウこれはもう間違いない!、、、と思ったそこのあなた。残念ながら間違いである。
ウスバシロチョウモンシロチョウの仲間ではなく、アゲハチョウの仲間である。
おいおいだったらシロチョウなんて紛らわしい名前を付けるなよと思うかもしれないが、実はウスバアゲハという別名もある(はじめからウスバアゲハでよくない!?)
名前の通り、白く見える羽は少し透けていて羽の奥の草花がほんのり見えることもよくある。
体が毛深いのも特徴で、このあたりは同じアゲハチョウ科のギフチョウと同じような感じある。

近縁のギフチョウ。体の感じがどことなく似ている
そんなウスバシロチョウであるが、モンシロチョウと比べると一回り大きく、直線的に飛ぶなんともゆったりと飛んでいることが多くその大きさも相まって中々の存在感を発揮している。
平野部よりは丘陵地や山間部のようなところに多く生息しており、生息地ではあちこちで飛んでいる姿を目にすることもある。
寒冷な地域を好むようで、西日本での生息地はあまり多くない
 
大体GW頃から出現しはじめ、夏になる頃には姿を消していく初夏のチョウであり、緑が深くなりかけた、爽やかな季節を象徴するような存在である。
タンポポハルジョオン等、様々な花で吸蜜する。季節の進んだお花畑はまさにウスバシロチョウの楽園となり、次から次へと花を訪れていく姿を見ることができる。

花を訪れるウスバシロチョウ。初夏の風物詩
そんなウスバシロチョウは他のチョウと一線を画している点がある。それは蛹の時に繭を作るところである。一般的に繭を作るのはガの仲間で、チョウは基本的にはむき出しの状態で蛹になる種がほとんどである
なのでウスバシロチョウはガを踏襲した点があるといえよう。
 
また、交尾をしたあとのメスのお尻に、オスが受胎曩を付けるという特徴がある。受胎曩とは簡単に言うと、貞操のことであり、これにより他のオスと交尾しづらくなる自分の子孫を残すためとはいえ、中々えげつない生態をしているものである。これは前述のギフチョウにも見られる行動であり、両者が近い仲間だということがうかがえる。

受胎嚢が付いているメス。こんなの付けられるってなんとも・・・
他のチョウとは少し変わったところもあるウスバシロチョウ成虫が見られる期間は短いので、見たい方はタイミングを逃してはいけない。みなさんもGWに、ウスバシロチョウを探してみてはいかがだろうか。
 
ウスバシロチョウ
チョウ目アゲハチョウ科ウスバアゲハ亜科
成虫は5月~6月頃にかけて出現
前翅長26mm~38mm
北海道、本州、四国に分布
日当たりのいい林縁や農地等に多く生息
初夏に出現するチョウ。白いがアゲハチョウの仲間

ハラビロトンボ・・・これほどまでにしっくりくる和名があるだろうか

腹部が太いハラビロトンボ。ぴったりな和名である

トンボというと細い体で水辺を縦横無尽に飛び回る姿を想像する方が多いだろう。

トンボという名前の由来は「飛ぶ」「棒」が組み合わさったものがなまったという説もあり、やはり何かとその体の細さはピックアップされがちである。
そんなトンボの仲間で、他のトンボと比べても恰幅のいい者が存在する。それが今回ご紹介するハラビロトンボである。
 
画像を見ればおわかりいただけると思うが、腹部が明らかに太いもちろん和名の由来もここから来ており、いかに特徴的な見た目をしているかがうかがえる。
オスもメスも腹部が太いので、まさにハラビロの名にふさわしい見た目といえよう。
そんなハラビロトンボであるが、実は横から見てみるとそんなに太い体をしている感がない加えて小ぶりなトンボなので、恰幅のいい体格に似合わずそこまで存在感がない。特にオスは体高がなくシュッとしているので、余計に普通のトンボ感がぬぐえない。

オスは横から見るとスリム。あの体格はどこへ?
オスは羽化後あまり時間が経っていない未熟な状態では、メスと同じような褐色の体色をしているが、成熟していくと黒くなっていき、最終的には青くなって粉を吹くようになる本当に同じトンボかと疑いたくなるような変化だが、トンボ界において、未熟な個体と成熟個体で体色が大きく変わることはよくあることなので、そんなトンボ界の慣習をきちんと踏襲しているということである。

黒くなったオス。松崎しげるもびっくり

青くなったオス。オオシオカラトンボっぽい色
ハラビロトンボはこれまた他のトンボと同様に、水生植物のよく繁茂した湿地や休耕田のような環境に生息している。そして他のトンボよろしく、水辺でパトロールをして回ったり、そこで交尾産卵を行ったりするちなみに交尾の時間が数十秒ほどと、他のトンボと比べて短いという特徴がある。
個人的な肌感だが、やや自然豊かな環境でないと見ることがなく、水辺があればどこにでもいる印象はない。また、拓けたところを好む傾向にあり、里山環境が減少した現在は、生息地が狭められているのかもしれない。
 
ここまで解説してきたが、ハラビロトンボは見た目こそトンボにしては恰幅のいい体型をしているわけだが、生態を見てみると、他のトンボとなんら変わらない生活を送っている。要するに見た目で判断してはいけないということを、ハラビロトンボは教えてくれているということである(なんちゅうこじつけ)
 
とはいえハラビロトンボは、変わった体型をしているので、見つけたらテンションが上がること請け合いである。体色の変化の過程を観察するのも楽しい。
皆さんもハラビロトンボを探して、恰幅の良さを確認してみてはいかがだろうか。
 
【ハラビロトンボ】
トンボ目トンボ科
成虫は4月~9月頃にかけて出現
体長32mm~39mm
北海道から九州にかけて分布
拓けた湿地や休耕田に多く生息
昆虫を捕食
腹部が太いのが特徴的なトンボ。オスは成熟すると青くなる。