トンボというと細い体で水辺を縦横無尽に飛び回る姿を想像する方が多いだろう。
トンボという名前の由来は「飛ぶ」「棒」が組み合わさったものがなまったという説もあり、やはり何かとその体の細さはピックアップされがちである。
そんなトンボの仲間で、他のトンボと比べても恰幅のいい者が存在する。それが今回ご紹介するハラビロトンボである。
画像を見ればおわかりいただけると思うが、腹部が明らかに太い。もちろん和名の由来もここから来ており、いかに特徴的な見た目をしているかがうかがえる。
オスもメスも腹部が太いので、まさにハラビロの名にふさわしい見た目といえよう。
そんなハラビロトンボであるが、実は横から見てみるとそんなに太い体をしている感がない。加えて小ぶりなトンボなので、恰幅のいい体格に似合わずそこまで存在感がない。特にオスは体高がなくシュッとしているので、余計に普通のトンボ感がぬぐえない。
オスは羽化後あまり時間が経っていない未熟な状態では、メスと同じような褐色の体色をしているが、成熟していくと黒くなっていき、最終的には青くなって粉を吹くようになる。本当に同じトンボかと疑いたくなるような変化だが、トンボ界において、未熟な個体と成熟個体で体色が大きく変わることはよくあることなので、そんなトンボ界の慣習をきちんと踏襲しているということである。
ハラビロトンボはこれまた他のトンボと同様に、
水生植物のよく繁茂した湿地や休耕田のような環境に生息している。そして他のトンボよろしく、
水辺でパトロールをして回ったり、そこで交尾産卵を行ったりする。
ちなみに
交尾の時間が数十秒ほどと、
他のトンボと比べて短いという特徴がある。
個人的な肌感だが、やや自然豊かな環境でないと見ることがなく、
水辺があればどこにでもいる印象はない。また、
拓けたところを好む傾向にあり、
里山環境が減少した現在は、
生息地が狭められているのかもしれない。
ここまで解説してきたが、ハラビロトンボは見た目こそトンボにしては恰幅のいい体型をしているわけだが、生態を見てみると、他のトンボとなんら変わらない生活を送っている。要するに見た目で判断してはいけないということを、ハラビロトンボは教えてくれているということである(なんちゅうこじつけ)
とはいえハラビロトンボは、変わった体型をしているので、見つけたらテンションが上がること請け合いである。体色の変化の過程を観察するのも楽しい。
皆さんもハラビロトンボを探して、恰幅の良さを確認してみてはいかがだろうか。
【ハラビロトンボ】
トンボ目トンボ科
成虫は4月~9月頃にかけて出現
体長32mm~39mm
北海道から九州にかけて分布
拓けた湿地や休耕田に多く生息
昆虫を捕食
腹部が太いのが特徴的なトンボ。オスは成熟すると青くなる。